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傷は癒えないのか?キロン(カイロン)に関する考察と実例

最近キロンが気になります。自分のチャートもそうですが、我々のセッションに申し込まれる方々も、そこに由来するテーマをお持ちであるケースが割と多く、そんなタイミングなので、秋の夜長にキロンについてあらためて考察してみたくなりました。

ギリシャ神話でのキロン(カイロン)

この記事を読んで下さっている方々の中には、ネイタルチャート上のキロンが何であるのかを既にご存じの方も多くおられるかと思いますが、簡単に触れておきたいと思います。

 

キロンはギリシャ神話の「カイロン(ケイローン)」という神にちなんで語られます。ゆえにチャートにおけるキロンの読み解き方もまた、この神にまつわる神話の中にそのエッセンスが散りばめられています。

 

カイロンは、一時は神々の王であったクロノスと妖精であるピュリラの子供です。クロノスが馬の姿でピュリラと交わったため、半人半馬の姿形で生まれました。つまり、半分が神で半分が人間ということですが、この姿形を忌み嫌った母親から捨てられてしまい、生まれて間もなく孤児となります。しかしながらそのことを不憫に思った神々の下で、高度な教育を受けながら育ちます。そして後に、数々の英雄の教育者となり「賢者カイロン」として知られる存在へと成長を遂げていくのです。(本日は触れませんが、カイロンの神話には続きがあり、我々の占星学講座ではもちろんその部分までを扱っていきます。)

諸説あるキロンの物語

ギリシャ神話は一つの物語からは成り立っておらず、このカイロンの物語にも諸説あるようです。ある文献によると、この半人半馬のカイロンからケンタウロス族が生まれたので、カイロンはケンタウロス族の王であると記載されていますが、別の文献によると、ケンタウロス族はイクシオンの子孫でありカイロンとケンタウロス族は関係がないと記載されていたりなど、諸説あります。

 

因みにこのイクシオンというのは何者なのか?あまりメジャーではない話かもしれませんが、系譜を辿るとアポロンとも関連があるラピテース族を祖に持つ人物です。ある時ゼウスの妻のヘラに懸想をしたことから、火焔車に縛りつけられて永遠に回転するという罰を受けることになる、「イクシオンの車輪」で知られています。この時イクシオンが、ゼウスが作った雲の形をしたヘラと交わったので、そこからケンタウロス族が生まれたというエピソードがあり、これが先ほど触れた2つ目の説と関連しています。

 

このイクシオンは他にも、自分の花嫁の父を罠にかけて殺したり、そもそも神を神と崇めない不遜さなどが目立ち、結果的にヘラの件をきっかけに永久に罰を受ける形で冥界送りにされます。そして、この一件から生まれたとされるケンタウロス族は、好色・酒好き、粗暴で知られており、およそカイロンの持つ質とはかけ離れていることも注目すべきポイントです。

 

もし仮にカイロンからこのケンタウロス族が生まれたとすると、かなりの突然変異であり、“賢者である父親とそのドラ息子たち”・・のような構図が成立しますね。これはこれで調べてみると深い意味合いがあるのかもしれませんが、今回の主題ではないため、この考察は他に譲ろうと思います。

カイロンの描かれた絵画
マックスフィールド・パリッシュ作「イアソンと先生」先生というのは、もちろんカイロンのこと

様々な有名人から感じるキロンの存在感

さて、今回は実際にキロンが私たちの人生にどのように作用するのか、著名人のネイタルチャートを元に考察をしていきたいと思います。

例えば、キロンが人生のテーマに色濃く反映されているなと感じる人物として、政治の世界では現アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏(2ハウス天秤座のキロン)や、ロシア大統領のプーチン氏(山羊座キロン・蟹座天王星と180度)などが思い浮かびます。また、芸能の世界ではジョニー・デップ氏(8ハウス魚座キロン・太陽とスクエア)などが、数々のキロンにまつわるエピソードと共に想起されます。

 

因みに我々個性占星学の講座でも、キロンは重要テーマとして応用講座で扱っておりますが、実在する人物のネイタルチャートを使い、エピソードと共に考察を深めていきます。

 

その上で、今回はブログという場でもありますので、これまで読んだことのないチャートを扱おうと思い物色してみたところ、以下の人物のチャートを発見しましたので、今回はこちらを例にキロンを考察してみたいと思います。

「万能の天才」レオナルド・ダ・ヴィンチとキロン

レオナルド・ダ・ヴィンチは、イタリア・ルネサンス期にあたる15世紀後半から16世紀前半にかけて活躍をした人物です。かの有名な「モナ・リザ」や、イエス・キリストと12使徒を題材とした「最後の晩餐」など、後世に語り継がれる作品を描いた偉大なる画家です。

一般的には“ダ・ヴィンチ”の呼称で親しまれていますが、直訳すると“ヴィンチ村出身の”となるため、最近の記載はレオナルドの方が使われているのだとか・・しかしながら皆にとってわかりやすいので、今回は“ダ・ヴィンチ”の方を使いたいと思います。

モナ・リザ
ダ・ヴィンチの代表作、モナ・リザ

卓越した技術力

さて。皆さんもご存じの通り、ダ・ヴィンチは単に画家として優れていたというだけではなく、絵画以外にも、科学や数学や天文学、人体解剖学、工学、建築など非常に多岐にわたる分野で卓越した才能を発揮した技術者であり、そして発明家でもありました。

携わったジャンルの幅広さは常人の域を完全に超えており、例えば時の権力者により軍事技術者として任命され、パラシュートや戦車といった発明品を生み出したりもしましたが、驚くべきことに、それらの技術は数百年先の技術を先取りするようなものであったとも言われています。

 

近代に至ってもなお、小説や映画の題材としても度々取り上げられるほど、人々の興味をひいてやまないダ・ヴィンチですが、一説によると、実際に生きていた当時も、非常に人を惹きつける中性的な魅力の持ち主でもあったようです。(ルネサンスの伝記作家ジョルジョ・ヴァザーリは、ダヴィンチを「自然を超越した」性質を持ち、「驚くほどの美しさ、優雅さ、そして豊かな才能に恵まれていた」と描写しています。)

ダ・ヴィンチのチャート

私が普段から使っているAstro Goldにもサンプルチャートとして入っておりますが、出生情報が果たして本当なのか?という少々の疑念も生じます。そこで22時という時間はどこからきているかを調べてみたところ、どうやら“レオナルドは1452年4月15日(ユリウス暦)の「日没3時間後」に、トスカーナのヴィンチに生まれた”という記録に基づいているようです。

 

因みに日没の時間帯も季節や場所によって異なりますが、この時期のトスカーナ地方の日没がちょうど19時前後になるため、おそらくここから22時生まれということになったのでは、と推測します。

 

ちなみに太陽は牡牛座ですね。ダ・ヴィンチからは牡牛座のルーラーである金星と密接に関わった人物ではないかと思います。金星に関して知りたい方は是非こちらの記事「アフロディーテの光と影~金星に関する占星学的考察」もご覧ください。

同じ金星をルーラーとする天秤座については「相手を知ることと調和について~天秤座に関する考察」で触れています。

キロンの傷は癒えないのか??

さて、具体的にチャートを見ていきましょう。仮にこの出生情報が正確なのであれば、レオナルド・ダ・ヴィンチのキロンは7ハウスに位置し、サインは双子座です。 7ハウスは天秤座と関連するハウスであり、このキロンは10ハウスにある天秤座の土星とアスペクトを持っています。ここからもまずシンプルに、関係性において何かしら傷を体験する可能性を示していると考えます。そして、このキロンは3ハウスにある魚座の月と90度、2ハウスにある水瓶座の火星と120度のアスペクトを持っているのも特徴的です。

ダ・ヴィンチのチャート
ダ・ヴィンチのチャート。この時間だと、奇しくもカイロンの神話に関係する射手座がアセンダントに。

ダ・ヴィンチと7ハウスのキロン

では、実際にダ・ヴィンチが経験した関係性とは一体どういうものだったのでしょうか。

出自やプライベートについては謎も多いようですが、まずダヴィンチが両親の事情により、私生児として生まれたことは事実のようです。そして、ダヴィンチの産みの母親は彼が5歳の時に別の男性と結婚をしたため、それ以降は彼の父親にあたる人物に引き取られ、実父と継母のもとで育てられることとなりました(実母と実父の関係性は、身分の差などの事情により、結婚が認められなかったといった可能性があるようです)。

 

このような生い立ちからは、ダ・ヴィンチのチャート上のキロンが、関係性といったテーマにおいて、冒頭のストーリーで触れたような生まれながらの傷や孤独感等の意味合いを帯びている様子がうかがえます。

 

一方で、彼の多方面に渡る活躍の裏には常に、関係性によってもたらされた数々のエッセンスが垣間見えます。チャートを見ても、傷やコンプレックスをつつかれるような体験の数々が想起される一方で、修練の時を経て、自ら持って生まれた生い立ちや味わった感情の数々をバネに、キロンの傷やコンプレックスを超えていった可能性もまた、同時に描かれていると感じます。

 

実際に、ダヴィンチの交友関係は非常に幅広く、芸術方面での才能を分かち合うような関わり合いはもちろん、時の権力者にも引き立てられて活躍の幅を広げるなど、単にキロンが傷やコンプレックスのまま終わったとはとても言い難いエピソードが数多く残っています。

双子座のキロン

双子座というサインにも触れておきましょう。双子座は一般的に、基礎的な学習や知性、好奇心といった領域と関わっていると言われますが、もちろんその他にも多くのテーマを持つ、知れば知るほど奥深いサインでもあります。そこに傷やコンプレックスを示すキロンがあると、一体どのような可能性が考えられるでしょう。

 

ダヴィンチの異彩ぶりを示すエピソードが大半のため、幼少期の学習がどうであったのかという情報には残念ながら行き当たらなかったのですが、彼が残した偉業にそのヒントが隠されているように思います。

 

冒頭でも述べた通り、レオナルド・ダ・ヴィンチは「万能の天才」として知られています。芸術以外にも多岐に渡る分野について学び技術として身につけ、それらの一つひとつにおいて専門家として力を発揮するなど、常人にはとても考えられないことをやってのけているわけです。しかし一方で、彼がもし双子座にキロンを持っていなかったとしたら、ここまでのことがやってのけられたのだろうか?そもそもそのようなモチベーションが湧いてきただろうか?とも思うわけです。

 

実際に、強烈な傷や痛みがある場所というのは、誰にとっても無視しようと思っても到底できるものではありません。当然ながら、その痛みから解放されるため・傷を癒すために、あの手この手でその痛みや傷をどうにかしようと手を尽くすのではないでしょうか。

本人の月と関わるキロンについて

レオナルド・ダ・ヴィンチのチャートで言えば、このキロンは月とも関連しています。月の示すものとして母親や感情とのつながりは一般的にも知られておりますが、占星学上では月は魂にも関連する天体と捉えています。

 

私たちは過去の人生において、克服できなかった課題、傷やコンプレックスのまま残っているテーマ等について、再びそこに取り組むために、今回の人生でも同様の経験をするように設定してきていると言われます。そしてそれらの課題やテーマというのは、チャートで言えば、例えばノード軸であったりキロンが示す場所に、そのヒントが隠されていると考えられます。

 

レオナルド・ダ・ヴィンチのチャートで言えば、彼は双子座のキロンを持っていますが、もし仮にレオナルドが双子座というテーマにおいて、魂レベルで何らかの傷を抱えていたとしたらどうでしょう。もしかしたら今回の人生では、その傷に正面から向き合い、そこを超えていくために、絶大なるモチベーションを持って、人生をかけて取り組んだ可能性があるかもしれません。

 

それらが結果として「万能の天才」と言われる偉業の数々に繋がったのだとは、考えられないでしょうか。 歴史上の人物のためこれ以上は想像の域を超えませんが、この人物に限らず、途轍もないことを成し遂げていく人の内奥には、一見すると漆黒で底の無い闇のような、しかし根底から全てをひっくり返して反転させるような、そんな絶大な力を持つエネルギーが秘められているように感じます。

双子座のキロンが秘めた二面性と葛藤

また、双子座というサインは風のエレメントに象徴されるような知的活動のテーマのみならず、その象徴となる双子のエピソードが示すような、いわゆる光と影の部分を内包しています。

 

ダヴィンチ自身、生涯結婚はしなかったようですが、同性愛者であったとも、実はレオナルド・ダ・ヴィンチは女性だったという説などもあります。プライベートなパートナーシップについては殆ど情報が残っていないものの、20代前半の頃に17歳の青年との男色行為疑惑で逮捕されたという記録は残っています。この当時は今と違って、同性愛が大罪とされていた時代のため、男性として生きるダ・ヴィンチにとって、社会的な成功と私的な生活を天秤にかけるような選択を迫られた可能性もあります。

 

一方、ダヴィンチが女性であったという説についてはごく一部で語られている説ですが、それがゆえに“自分が愛した人に自分の真実の姿を知って欲しい”、その願いを込めて、あの「モナ・リザ」を描いたというのです。これについてはインターネットをたたいても中々出てこない情報のため、真偽のほどは定かではないのですが。もし仮にこの説が真実だったとしたら、7ハウス双子キロンの示す、もう一つの表現の可能性の様に感じるのは私だけでしょうか。

 

余談ですが、数年前にパリのルーヴル美術館で、実際にこの「モナ・リザ」を観たことがあります。絵の大きさは想像よりも遥かに小さかったにもかかわらず、本当に世界中の人がこのモナリザに魅せられていることが一目瞭然で、その絵が飾られた一角だけが、芸能人の記者会見さながらにカメラのフラッシュ音が鳴り止まずといった状況でした。(日本だとおよそ考えられないような、ここから先は立ち入り禁止のロープのみで仕切られている簡易なセキュリティーで、ある意味撮り放題でした。笑)

 

ダ・ヴィンチの代表作は他にもたくさんある中で、歴史を超えて、世界中で人々を惹きつけてやまないこの作品の中に、私たちはこの双子キロンに秘められた影の部分を、無意識のうちに感じ取っているのかもしれません。

まとめ~キロンとの向き合い方について

最後に。一般的な占星術の世界では、キロンの示す傷やコンプレックスは、自分でどうにかできるものではなく、ましてや癒えることはないのだとする解釈も多くあるようです。これについては、究極的にはどちらが正しい・間違っているというものでなく、一人ひとりがそのポイントをどのように捉え、自分の大切な一側面として、人生という舞台で如何に表現していくかに委ねられていると考えます。

 

少なくとも我々の個性占星学では、今日このブログでお伝えしてきたような可能性として、キロンを扱っておりますが、もちろん個人天体などのように、能動的に取り組んでいくという類のものでは無いことも事実です。

 

なので取り組み方としては、人生において、もしキロンの持つテーマにまつわる出来事が浮上してきた時には「そこから逃げずに向き合ってみる」、「自分のまだ見ぬ可能性に触れる姿勢で取り組んでいく」、ということが重要になってくるかと思います。人間のエゴにとっては非常に勇気と高潔さが要求されることだと思いますが、いつかのブログにも記載したように、魂はその人にとって越えられない壁を設定したりはしない、という視点も重要です。

 

そのように自分自身の人生に真摯に向き合ったとき、ネイタルチャート上のキロンは、賢者カイロンの生き様そのものを示すような可能性を、私たちに見せてくれるかもしれません。

 

それでは、少し長くなりましたが今回はこのあたりで・・・

また次回ブログでお会いしましょう!

この記事を書いた人:

プー
三面観音プー

占星学士。人材業界大手企業等で培ったキャリアカウンセラーとしての知見を活かし、2021年から占星学をベースにした独自のカウンセリングやグループ活動を開始。のべ3,000人以上の転職サポートをした経験と占星学の要素を取り入れたセッションには定評がある。より詳しくは講師紹介ページをご覧ください。

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